前回、英語版ウィキペディアには「
日本のファシズム」という項目があると書きました。
もう読まれた方も多いとは思いますが、いちおう引用しておきます。
日本のファシズム
「日本のファシズム」という一般的な用語は、日本のナショナリスト思想、その理念的基礎と政治における履行の概略を述べるときに使われてきた。もうひとつこの用語が使われる可能性があるのは、日本の右翼(極右)思想一般だ。それはまた、大和朝廷時代から明治時代までの日本の古い政体と昭和ナショナリズムとの継続性の主張とも関連付けられる。−−江戸時代の国内の平和が封建時代と近代化の時代を分かつのではあるが。
ファシズムという言葉を日本との関連において使用することについては議論がある。これはひとつには、日本のファシズムは真の意味での政治的運動ではなく、日本の政治エリートが使った保守的な、ファシズムに類似した理念だったからだ。
日本のナショナリズムの基礎
実際、日本のナショナリズムはヨーロッパのファシズムと極めて異なっているが、それでも部分的には、その展開は類似性があると見られている。その要素はアジア的ファシズムまたは日本的ファシズム(Japanese Fascism)のラベルで論じられてきた。
ヤマト帝国は、唯一の強力な指導者(天皇)に率いられる国家としての概念だ。封建時代には武士とサムライを含む戦士階級が単一の総司令部的機構である幕府として組織され、それが国家の政治権力として機能した。この時代においては、それが基本的な社会組織、権力構造、法の土台をなした。それは三つの段階に分けられる。
鎌倉時代(1185-1333)
室町時代(1338-1573)
徳川時代 (1603-1867)
明治維新、すなわち日本帝国誕生の後、結果は上に述べたと同じに見えるが、また違った状況で展開した。
今度は、国家を拡張し、均一の国民教育と宗教をあたえる力を持ち、人民に国家の歴史に対して誇りを持たせる力を持つ指導者がいた。これは天照大神を中心とする天皇崇拝に発展した。
北一輝や中野正剛らのイデオローグの貢献が右翼組織とナショナリスト社会と結合したとき、日本版の中央集権国家に至る。
日本人は古代の思想と慣行の復活に刺激された。
サムライ封建主義、文化、慣行、神話の回顧的な要素は、アジア大陸を支配する日本の神聖な使命という国家的信念のために貢献した。
軍国主義
政治権力を維持しようという軍事指導者の欲望は、領土拡張という国家目標とともに、日本の軍事力の拡張とその政策に反対する者たちへの弾圧という結果をもたらした。
(後略)
一読してわかるのは、この文章が日本は歴史始まって以来一貫してファシスト国家であったと印象付けようとしている点です。そこに、「狼は毛並みを梳かして整えても犬にはならない。」と、日本の政治の現実がどうあろうとも、
日本が本来的にファシスト国家であると強弁する戴旭さんと同じ意図が読み取れます。
同じ論法を使えば、中国で数千年来続いてきた一君万民、皇帝独裁の政治体制から説き起こして、中共によるチベット、トルキスタン等への侵略、建国以来変わりのない苛烈な人権弾圧、さらには近年の民族主義宣揚に伝統的な中華思想を結びつけて、「中国のファシズム」という項目を書き上げることもできそうです。
多少うがった言い方ををすれば、この項目は中国人の手によるのではないかと思えます。引用はしませんでしたが、汪精衛について詳しく述べるなど、中国に強いこだわりを見せているところからもそれは言えます。
思うに、この項目の筆者は「ファシズム」という誰もが認める項目の編集には介入できなかったために、このような項目をゲリラ的に作ったのではないでしょうか。私もウィキペディア編集の仕組みについては詳しくないので確定的なことはいえませんが。
この「日本のファシズム」という項目の存在には強い疑問を呈する人がいて、付属の「トーク」のページで議論されています。
このページは糞だ
このページはウィキペディアの水準にほんのわずかも合わない。太平洋戦争で最高潮に達するある種の日本の集団の思想の展開と歴史を述べる場所なら想像もできるが、このページは糞だ。この点で、全部を削除して「日本のナショナリズム」に入れ替えるべきだろう。正直言って、ページ全体から反日ヒステリーのにおいがふんぷんして来る。
−−カール
言葉を穏やかにできないか? (後略)
−−チャールズ・マシューズ
この記事は間違っていると思う。強くそう思う。糞というのは私の気持ちを伝えるには弱すぎると思う。どちらにせよ、言葉を変えるつもりはない。
このページはゴミだ。何とでも呼べばよいが、間違いが正されない限り、このページは削除されるのが適当だ。
「ファシズム」という言葉を1930年代のヨーロッパの軍事政権以外に使うのは、はじめから一方的な偏見だ。日本の歴史全体を事実上「ファシズム」として分類するのは基本的に不必要に扇動的だ。
太平洋戦争期の日本軍国主義の根をもっと早期に始まる動きに求めるのは良いが、日本全体に中傷的なレッテルを貼り付けるのはウィキペディアのやり方ではない。
このページのコンセプトは別にしても、文法と文字の使い方がひどいので文章が読むに耐えない。
−−カール
これは削除依頼が出されている。あなたには意見表明の権利がある。「攻撃的雰囲気」についてのコメントを読めば、なぜ私が懸念しているかわかるだろう。あなたが適当だと思っている言葉を使わなくとも意見は述べられる。私はあのようなページの内容を弁護しているのではない。
−−チャールズ・マシューズ
わかった。言いすぎだったようだ。
だけどあなたが何を言いたいのかよくわからない。あれはネイティブスピーカーが読んでわかるように編集される必要がある。
(後略)
−−カール
この項目の執筆にかかわった者が英語のネイティブではないと示唆している人は他にもいます。
ファシズムはどこにある?
(本文記事を引用して、)
ハー? ネイティブスピーカーでない者がここにかかわっていることがわかる。英語教師としての私の最良のアドバイスは文章をもっと短くすることだ。

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- 2007/08/12(日) 13:21:26|
- 歴史認識問題
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たいへん遅くなりましたが、
アメリカの刀を借りて日本右翼を殺せ 本文記事の「ファシズム」という用語についてコメント欄で意見を寄せられた方がおられるので、それに関連して。
「ファシズム」という言葉は単なる罵倒語として用いられているということですが、ある言葉を誤用する人がいることはその言葉が無意味であることを意味しません。
それに、くだんのブログの戴旭という軍人はその言葉を現代日本に対する罵倒語に近いものとして使用している気味がありますので、言葉の由来と定義をはっきりさせておくことが必要かと思います。
関連する箇所を抜き出してみます。
ファシストは人類共通の敵であり、日本の右翼は本質的には民族主義などではなく、当時のファシズムの毒が現代まで残っているに過ぎない。欧米は日本から空間的に遠く離れているため、加えて日本経済の奇跡と日本の指導者が何かにつけて叫ぶ民主国家の看板に惑わされて、歴史上日本軍国主義が根本から清算されてこなかったという事実を見落としてきた。狼は毛並みを梳かして整えても犬にはならない。欧米はいま目を覚ますべきだ。日本の右翼は以前は歴史問題で中国を挑発し、現在アメリカをからかい始めた。次は全世界を愚弄するだろう。
(中略)
アメリカは、現に日本との政治上の同盟国ではあるが、人類普遍の価値観に関しては基本的な良識をなくしたわけではない。そして、中米間には意見の不一致や衝突があるにしても、新ファシスト等の人類の敵に反対することにおいては根本的に一致する。
戦前の日本がファシズム国家であったことは中国では常識とされています。
たとえば人民網(人民日報のウェブサイト)の2005年9月の「反ファシスト戦争勝利60周年」という特集に「
反ファシズム戦争 世界は中国の貢献を忘れない」という記事がありますが、「中国の貢献」とはもちろん「抗日戦争勝利」のことであり、記事中では「日本ファシズム」という言葉が何度も使われています。
また、9月3日の
人民大会堂での演説でも、胡錦濤ははっきりと次のように述べています。
「中国人民の抗日戦争は世界反ファシズム戦争の重要な構成部分であり、世界反ファシズム戦争の東方における主戦場である。」
【関連記事】
人民網 世界反ファシズム戦争における抗日戦争の歴史的位置付け第二次大戦における「反ファシズム」陣営の一員としての立場を強調したい胡錦濤をはじめとする今の中共の意向が如実に読み取れるところです。戴旭さんなどはさらに一歩踏み込んで、現代日本を人類の敵「新ファシスト」と規定してアメリカを利用して日本を押さえ込もうとさえしています。
では、中共が反日本連合の同志として期待する欧米ではこの問題をどう捉えているんでしょうか。
アメリカの
コロンビア百科事典の「ファシズム」の項は両対戦間のイタリアとドイツについての記述が中心で、他にはオーストリアとスペイン、戦後の南米の政権に触れている程度です。日本についての言及は一切ありません。
英語版ウィキペディアもほぼ同じです。
(少し前までの英語版ウィキペディアには「両大戦間のヨーロッパの政権以外がファシズムとして言及されるのはまれである」という意味の記述があったと思うのですが、今探したら見当たりませんでした。)
日本語版ウィキペディアには 「軍事独裁政権下の大日本帝国(天皇制ファシズム)・・・・等もファシズムに位置づけられることがあるが、ファシズムか否かでは論議が分かれる。」 という記述もありますが。
このように見ると、「反ファシズム連合」の重要な一翼であるという欧米に向けてのアピールは中共の独りよがりの空振りに終わりそうです。ましてや現代日本がファシズム国家などというのは荒唐無稽もはなはだしいことです。
戴旭さんの試みは、日本語版ウィキペディアで述べられている類のものと言っていいでしょう。(英語版にも同様の記述があります。)
「 ・・・第2次世界大戦前後の期間に集中して現れている。これら以外の国家体制がファシズムとされることはあるものの学術的な根拠は貧弱で、特定勢力のプロパガンダによる蔑称、反体制非難等の諜報戦、思想戦に利用される事も少なくない。俗用による語義の拡散が原因であるとも指摘されている。」
では、中共をファシストと呼ぶことも同様に根拠の貧弱なプロパガンダということになりそうですが、しかし、現実の国家体制においてファシズム国家と共産主義国家の類似性を指摘しているのは何も日本人だけではありません。陳礼銘という中国人は、「
社会主義とファシズム」という論文で、両者の共通点として次の八点を挙げています。反体制側からの思想戦の様相を帯びていることも確かですが。
1、怨恨をつくる。
永遠に敵をつくらなければならない。
2、自己を持ち上げる。
人を「我々」と「彼ら」にわけ、「我々」の苦難をすべて「彼ら」のせいにする。そして恥知らずにも自己を「我々」の代表として任ずる。
3.迷信専制独裁。
議会制民主主義を憎む。
4.暴力崇拝。
5.反対者の弾圧
6.勢力拡張
7.世論統制
8.経済壟断
そう言えば、中国のサイトで、次のような意味深長な問答がありました。
「ファシズムって何?」
「国家社会主義。」
「国家社会主義と社会主義はどう違うの?」
「それは誰も言えない。」
長くなるので引用はしませんが、
■現代中国をどう見るか〜ファシズム的共産主義の脅威 で、国民統合の理念を共産主義から民族主義に切り替えた近年の中国がナチス型国家にますます似てきていることが余すことなく論じられています。
英語版ウィキペディアの「ファシズム」の項には日本いついての言及がないと書きました。ところがそこには驚いたことに「日本のファシズム」(Japanese fascism)という項目があるのです。その件については次回にします。

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8月10日前後を最後にしばらく休止することになりそうです。
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- 2007/08/08(水) 21:27:12|
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